コストプッシュインフレ
Cost-push inflation

コストプッシュインフレとは
コストプッシュインフレは、原材料・エネルギー・輸送費・人件費などのコスト上昇が販売価格へ転嫁され、物価全体を押し上げる現象です。原油高、部品不足、輸送の混乱、円安による輸入コスト増などがきっかけになります。
買いたい人が増えることを主な出発点とするディマンドプルインフレと違い、供給する側の負担増から始まります。現実の物価には両方の要因が同時に影響することもあります。
コスト増が、そのまま同じ率の値上げになるわけではない
企業はコストが上がると、利益を減らして価格を据え置く、値上げする、材料や工程を変える、生産を減らすなどの対応を取ります。競合、需要、契約、在庫によって、価格に移る金額や時期は変わります。
たとえば、数量を一定とし、商品1個の税抜販売価格を1,000円、諸費用を含む原価を800円と仮定します。利益は200円です。原価が900円に上がった後の対応を比べると、次のようになります。
値上がり前:価格1,000円 − 原価800円
利益200円/個
原価が800円 → 900円コスト増 +100円/個
企業が全額吸収
販売価格 1,000円
価格1,000 − 原価900
利益100円
50円を価格へ
販売価格 1,050円
価格1,050 − 原価900
利益150円
100円を価格へ
販売価格 1,100円
価格1,100 − 原価900
利益200円
販売価格を100円上げれば1個当たりの利益は元の200円に戻りますが、販売数量が減れば利益総額は減る場合があります。値上げ幅だけで企業の採算を判断せず、売上数量や原価も確認します。
実際の改定例:修理参考価格27,500円から37,400円へ
任天堂は、修理部品の価格高騰により、2026年11月16日(月)に同社へ到着した修理品からNintendo Switch 2本体などの修理価格を改定すると案内しています。発送日や申込日ではなく、到着日が基準です。
| 対象の修理・症状の区分 | 11月15日まで | 11月16日以降予定 | 増加額 | 上昇率 |
|---|---|---|---|---|
| CPU基板 | 27,500 | 37,400 | +9,900 | +36.0% |
| 液晶ユニット等 | 15,400 | 16,500 | +1,100 | +7.1% |
| ゲームカードスロット・バッテリー等 | 9,900 | 11,000 | +1,100 | +11.1% |
| イヤホン・SDカード・スピーカー等 | 7,150 | 8,250 | +1,100 | +15.4% |
任天堂の修理参考価格、2026年10月16日確認。日付は2026年の同社到着分。上昇率は増加額÷改定前価格×100、小数1桁に丸めています。価格は症状・交換箇所などで変わり、複数の故障では表の額を超える場合があります。
CPU基板は37,400−27,500=9,900円の増加で、9,900÷27,500×100=36.0%です。これは修理サービスの参考価格の上昇率であり、部品原価が36%上がったという意味ではありません。公表価格だけから、原価の増加額や転嫁割合を逆算することもできません。
この改定は、部品のコスト増が利用者の支払う価格へ波及する具体例です。ただし、一つのサービスの値上げだけで、国全体のインフレ率やその原因が決まるわけではありません。
企業の値上げと、国全体のインフレをどう見分ける?
個別商品の値上げは、ほかの商品との相対価格の変化でもあります。経済全体の物価を確かめるには、幅広い財・サービスを対象とするCPI(消費者物価指数)などで、値上げの広がりや持続性を見ます。
ニュースでは、まず「何のコストが上がったか」、次に「企業がいくら・いつ価格へ転嫁したか」、その後「ほかの商品や賃金にも波及しているか」を確認します。コストの上昇と消費者価格への反映には時間差があるため、原材料価格が落ち着いても値上げが遅れて続くことがあります。
値上げ後の価格が据え置かれた場合、価格水準は高いままでも、その値上げによる前年比の押上げは1年後に一巡し得ます。「値上がりが続くか」と「高い価格が続くか」を区別すると、インフレ率の鈍化と値下がりを混同せずに済みます。
利上げで解決する?家計や景気への影響
コストが販売価格へ広く移ると、家計は同じ収入で買える量が減り、企業も利益や生産を圧迫されることがあります。物価上昇と景気停滞が重なる局面はスタグフレーションと呼ばれますが、コスト増が起きたすべての局面で生じるわけではありません。
利上げは借入や支出などを通じて需要を抑え、値上げの広がりや期待に働きかけます。一方、部品やエネルギーの供給不足を直接解消する手段ではなく、効果にも時間がかかります。コスト増が一時的か、賃金・サービス価格などに持続的に波及しているか、生産や雇用がどれほど弱るかを併せて見る必要があります。
コストプッシュインフレについてよくある疑問
- 修理価格が36%上がるなら、物価も36%上がりますか?
- 上がりません。36%は対象となるCPU基板の修理参考価格の改定率です。国全体の物価上昇率は、ほかの財・サービスの価格や家計支出の重みも含めて測ります。
- 任天堂の修理価格は、もう改定されていますか?
- 2026年10月16日時点では、11月16日に任天堂へ到着した修理品からの改定予定です。表は改定前と改定予定を比較したもので、発送日・申込日で適用価格を判断しないようにします。
- 原価が12.5%上がったら、同じ率だけ値上げが必要ですか?
- 同じ率とは限りません。原価800円から900円、価格1000円なら、増加分100円を全額上乗せした価格は1100円で10%増です。必要な価格は利益、需要、数量や契約条件でも変わります。
- 原材料が値下がりしたのに、店頭価格が下がらないのはなぜですか?
- 契約や在庫の時間差、過去のコスト増の転嫁、賃金・輸送費など別のコストが影響する場合があります。特定企業の事情や利益率を、原材料価格だけから断定することはできません。
- 関連用語
- インフレーション一般物価が持続的に上がる状態
- ディマンドプルインフレ需要超過型との違い
- スタグフレーション物価上昇と停滞の併存
- CPI(消費者物価指数)家計段階の物価指標
- 基調的な物価上昇率一時要因を除く基調